永野シン句集『桜蕊』

 俳句結社小熊座同人の永野シンさんの第二句集です。句集の表題「桜蕊」を鮮かに印象づけるとても美しいピンク色の表紙に包まれたA5判の角背の本です。1頁に18ポイント程の大きさの文字で俳句が2作づつ組まれています。組版の作りは、余白を大きく広げ、ゆったりとした贅沢なものです。クリーム色の温かな本文の紙面にくっきりと浮かんだ文字を眺めていると作品に対する作者の愛おしい思いが深く伝わってきます。発行は令和元年12月12日、発行所は株式会社朔出版と奥書に書かれています。  この句集には、平成21年から令和元年に詠まれた229句が納められています。小熊が選ばせていただいた作品は次のとおりです。 鍵もたぬ島のくらしや揚雲雀 下駄放る天気占い夕ざくら 改札を突き抜け来たり夏燕 噛み合わぬ二人となりて心太 薫風や睡気をさそう象の耳 少年にカレー大盛り祭笛 寒晴や元気元気と物忘れ 百本のコスモスにある百の鬱 一気とは恐ろしきこと散る銀杏 児を抱きて月の重さと思いけり 初春やまだ役に立つわが手足 死ぬ気などいささかもなし春キャベツ 大根を引けば傾く不忘山 眠そうな春の川面の浅葱色 手も足もはずしたき日の大夕焼  俳句には疎いのですが、句集を短い期間に二度も読み返したのは初めてでした。  最初に読んだときの私の気分と二度目に読んだときの私の気分ではちょっとした違いがありました。なので、自ずと選ばせて…

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