yumbo『鬼火』

 かつて、電力ホールのグリーンプラザで yumbo の澁谷浩次が何かのイベントを行った。詳細は忘れたが、あの人が雑多に行き交う通り道にできた停滞した空間に彼のピアノソロの音楽が流れていた。それが、私が彼の音楽と出逢った最初であった。  あの頃、私はキース・ジャレットの初期のソロピアノを聴いていたし、ポール・ブレイのピアノソロ作品『オープン・トゥー・ラブ』も聴いていたと思う。私にとって、その頃、ピアノソロの音楽は、それらとイコールであった。流れていた音楽の印象としては、ポール・ブレイのそれに近いとは思ったが、意外に穏やかなものであった。環境音楽と言ってもよい癒やしを伴った音であった。開放された公共の空間に、違和感なく溶け込んでいたことが、今からすると不思議だった。しかし、意図的にそういう場に合った音楽を作ったというよりも、その演奏は、事前に楽譜が用意されて演奏されているものではなく、すべてが場のイメージを持たずに、演奏者自身の中にある世界の中の刺激において、即興で演奏され、録音されているものという確信があった。  yumbo の『鬼火』(7e.p.レーベル、epcd 092/3)を聴いていて、そんなことが頭を過ぎった。自分は、ほとんど聴いてはいなかったが、初期の yumbo においては、<破壊>という行為がかなり重要だったと私は思っている。遠い昔に電力ホールのグリーンプラザに流れていた音は、そういうものとは全く違ったものであった。  音楽の形態は違うのではあるが、今の yu…

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