瀬崎祐個人誌『風都市』第39号

 とある遠方で開催された勉強会でオランダの精神科診療所とオンラインで結び、油粘土を使ったアートセラピーの模擬体験をした。事前にはなんの説明もなく、遙か海の向こうのオランダのセラピストの指示に従って私たちは粘土を捏ねて形を作った。  「目を瞑って自分の周りに手を伸ばし、自分の身体が立っているその場の空間を感じてください。次にその空間を感じながら粘土で四角い立方体を作ってください。それは椅子です。今度はその椅子の上に座っている人を作ってください。自分の足や腕や胴体、そして頭に触れて感じながら丁寧に形を整えてください。できあがりの形の善し悪しは関係ないです。大切なことは自分を感じながら丁寧に形を作ることです。」    そうやってできあがった椅子に座った人はいびつでへんてこりんな姿をしていたが、まぎれもない人の形であった。そして、大切に家に持って帰るまでがセラピーですと言われ、帰宅するまでの間、私は大切にそれを扱った。今、自宅に帰った彼が、私の目の前にいる。それは自分にとって、とても大切なものに思える。  瀬崎氏の詩に対する私の印象は、それに似ている。それとは、油粘土の人間に似ているのではなく、形をつくるわたしの意識や大切に作った人形を見ている私の思い、そこに至るまでの気持ちの動きが似ているのである。    それでは楽にしてお待ちしてください        それではって    今まで何があったのだろう    手錠をはめられた女がいぶかしがる       …

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