瀬崎祐個人誌『風都市』第37号(2020年冬刊)

 瀬崎祐氏の個人誌『風都市』第37号のことを書く前にちょっと前提を書かせていただきます。ここ数日、私は長尾高弘氏の詩集『抒情詩試論?』の感想を書くために、長尾氏の詩集『抒情詩詩論?』を鞄に入れて少しずつ読んでいます。また、それと関連して長尾氏がかつて「詩の源流」と題して尾形亀之助読書会で講演をしていただものを纏めた記録を再読しています。『叙情詩詩論?』については、近いうちに感想をこの情報短信に掲載したいと思っていますが、まず最初にここで書きたかったことは、今回送られてきた個人誌『風都市』第37号の中の瀬崎氏の作品「城壁を越えるときに、鳥は」を読んでいて、長尾氏がずっと書かれている詩についての思考のことが頭を過ぎったということです。  長尾氏は、抒情詩を書かないようにと思い詩を書いていて、結局、後で読んでみると抒情詩を書いてしまっていることに、詩集『抒情詩詩論?』で自虐的に論じています。感情や思考はあくまで個人に生じるものですが、それがなんの弾みか(詩はほとんどの場合に発表を前提として書かれている。)、他の人の共感を得ると、個人のものではなくなり、やがてみんなのものとなり、気がつけば絶対的なものとなる場合があります。感情や思考がまだその人のもの、あるいはその人のごく少数の知り合いの人との間の共有したものであるときには、違う感情や思考に変わったり、日々起きる出来事に影響され違う感情や思考となったり、自分自身でそのことを否定したり、他人の影響を受け変わったりすることは簡単に起きることで…

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永野シン句集『桜蕊』

 俳句結社小熊座同人の永野シンさんの第二句集です。句集の表題「桜蕊」を鮮かに印象づけるとても美しいピンク色の表紙に包まれたA5判の角背の本です。1頁に18ポイント程の大きさの文字で俳句が2作づつ組まれています。組版の作りは、余白を大きく広げ、ゆったりとした贅沢なものです。クリーム色の温かな本文の紙面にくっきりと浮かんだ文字を眺めていると作品に対する作者の愛おしい思いが深く伝わってきます。発行は令和元年12月12日、発行所は株式会社朔出版と奥書に書かれています。  この句集には、平成21年から令和元年に詠まれた229句が納められています。小熊が選ばせていただいた作品は次のとおりです。 鍵もたぬ島のくらしや揚雲雀 下駄放る天気占い夕ざくら 改札を突き抜け来たり夏燕 噛み合わぬ二人となりて心太 薫風や睡気をさそう象の耳 少年にカレー大盛り祭笛 寒晴や元気元気と物忘れ 百本のコスモスにある百の鬱 一気とは恐ろしきこと散る銀杏 児を抱きて月の重さと思いけり 初春やまだ役に立つわが手足 死ぬ気などいささかもなし春キャベツ 大根を引けば傾く不忘山 眠そうな春の川面の浅葱色 手も足もはずしたき日の大夕焼  俳句には疎いのですが、句集を短い期間に二度も読み返したのは初めてでした。  最初に読んだときの私の気分と二度目に読んだときの私の気分ではちょっとした違いがありました。なので、自ずと選ばせて…

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