駒村吉重『おぎにり』
ある一つ世界が完結している印象を持つ詩集です。そんな感想を持つ詩集に出会うことは、私にとってそんなに多いことではありません。「ある一つの世界が完結している」ということは、その「世界が完結しない世界」ということでもあります。
駒村吉重氏の詩集『おぎにり』(2018年5月2日発行、発行所:未知谷)の感想を書くと、この数行で十分ではないかと思ってしまいます。ですから、これから先へと書き進める文章は余談ということで目を通してください。
収められている53篇の作品から、どうしてそのような感想を私が持ったのか。短い詩「はりがね」の全文を引用させていただきます。
はりがね一本ありました
まっすぐではない
うねっている
うごかない
しゃべらない
つかいみちがない
これでいい
こうでなくちゃいけない
いっさいははりがねの意志
はりがね一本そこにいます
詩「はりがね」全文
なにげない、ついこれといった印象も持たずに読んでしまいそうな作品です。それだけに、この作品がどうして詩なのだろうかと不思議な気持ちになります。同時になにか落ち着き処のない、居心地の悪さを感じます。それは、私だけな感想なのかもしれませんが、なにか落ち着かない不思議さがこの詩集全体にはあります。それは、誰かに騙されているわけではないのですが、自分を欺いている自分がいるという、疑いだした…