小関俊夫『ラムの足音』

小関俊夫詩集『ラムの足音』(2025年4月、無明舎出版)について  前作の詩集『もったいない農婦』の発行から約2年。小関さんの8作目の詩集です。奥付の著者略歴をみると最初の詩集が2011年で、それからほぼ2年に1回、最近では毎年のように詩集を出し続けています。  相変わらず、人間に背を向けてぶっきらぼうに語っています。何に向かって語っているのでしょうか。ぶっきらぼうなのに、とても心が温む不思議な言葉です。確かなことは、小関さんの視線の先には、小関さんが育てている作物や、その周りに生息する植物、虫や爬虫類、鳥たち、動物が存在しているということです。そして、それらを育む自然の姿や変化にも視線は向けられています。  小関さんは視線の先にあるものに語りかけている。視線の先にあるものが小関さんの読者と言ってもよいのかもしれません。語りかける小関さんの言葉はとても温かく、決して否定をしない受け入れる包容力のある言葉なのですが、それでも小関さんの言葉をぶっきらぼうに感じるのは、人間に対する期待や希望がきっぱりと語られていないからなのだと思います。裏返せば、この詩集を読んでいる自分が今の社会に生きている人間であることを改めて意識させる言葉です。  イスラエルの  ガザ空爆を  テレビで見た  空虚をきりかえ  ジャガイモを蒔く               詩「空」全篇  小関さんが抱えている空虚がどんなものかわたしにはわかりませんが、さま…

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駒村吉重『命はフカにくれてやる 田畑あきら子のしろい絵』(2024年、岩波書店)について

       ★     彼岸を疾走しつづける少年の燃える髪の輝きを浴びて、河辺で一人の少女が身体に    巻いた白く長い包帯を解いている。秘仏か木乃伊のように。白い無数の下着のうちで    激しく回転する肉体がみえる、あたりはそのため霧を生じ、私は頬に冷たい掌の感触    をうける。        ★     行け! 行け!     行け! 行け!     行け! 行け!     響く叫び、響く光景全体は     おお 球状の言葉だ!     私は人間の姿をしていない、言葉だ!     行け! 行け!     おお 壮大に腐ってゆく     純白文字が撥する虚無音を聞いた     紙幣が薄紅色だ!     ラッセル     雪     行け!     ときおり私は青いガラスの破片をひろって額の中心に飾った     ああ 世界中と平行移動     私の歩行の時間構造が私の魂の実体だろうか     行け!     銀河破壊!           吉増剛造『黄金詩篇』より           詩「夏の一日、朝から書き始めて」第四連及び第五連  この本、駒村吉重『命はフカにくれてやる 田畑あきら子のしろい絵』(2024年、岩波書店)を最初に読み終えて、二つのことが私の頭を掠めました。一つは、田畑あきら子のカタカナ混じりの言葉が、あまりにも!吉増剛造の詩の言葉の運びを彷彿させるということです。もちろ…

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絵本『湾』(詩:千田基嗣  絵:山本重也)

 絵本が届きました。発行者は気仙沼自由芸術派 詩人千田基嗣さん。絵は、山本重也さん。絵本の題名は「湾」。発行は2024年11月23日。   この絵本を手にした時に最初に思ったことは、40年前の1984年に発行された千田さんの最初の詩集『湾』のことでした。それは題名が同じということよりも、絵本の姿形を見て触った瞬間に、詩集『湾』の小さな詩集の姿が浮かんできたのです。それはどうしてか、自分でもわかりませんでした。  詩集『湾』は、B6サイズで28頁の小さな詩集です。収録されている詩は9篇。あとがきもなく、最後のページの作者紹介のクレジットには、名前の下に小さな文字で「1956年生」と書かれているだけでした。荷物の梱包に使われるような茶色のざらついた紙の表紙。薄い本文用紙。詩集の題名の下に「千田基嗣 book let 1」と書かれています。言葉の通りに、小さな小冊子です。丸めてカバンに入れて持ち歩きたくなるような詩集です。でも、すぐに傷んでしまうような質素な詩集。それだけに、初々しさが感じられます。わたしは、本棚からその詩集『湾』を取り出して読み始めました。  絵本『湾』のことに戻ります。千田氏は、絵本『湾』のあとがきで、「絵本を創ることは夢だった。/固い表紙の上質な絵本。」と書いています。絵本というと児童書のようなイメージを持ちますが、表紙に「Picture book “the BAY”」と書かれているとおりに、絵を見る本ということです。そして、絵を見ると同時に、山本重也…

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